再び西表へ1~フランス人

青い目の青年と遭遇する

数年後、再び、西表は大原の港に降り立った。
季節は確か春だったように思う。
ホーバークラフトは健在であったが、ワシは清貧をモットーとしていたので今、回も低速船でとろとろと揺られてきた。
以前の手提げバックに島ゾーリと違い、リュックとズック姿だ。
何も変わりない大原部落内を、ゆっくりと歩く。

ぶらぶらしながらふと前を見ると、数メートル先の青い目の青年と目が会う。
青い目「OH、○△#$×,◇∞☆¥∩¢!!」
ワシ「ん、んんん?」

この青い目とは、4~5日前、那覇のユースホステル風の安旅館で相部屋だったので、見覚えがある。
ワシは那覇では、国際通りなど町中をぶらぶらしては、夜はドミトリールームに戻り、寝るだけの生活だった。
3~4日間、この青い目とは朝夕部屋で顔を会わせていたが、会えば無言のまま、目で挨拶する位のもんだった。

このような場面で、青い目はこうは言うまい。
「オー、マタアイマシタネ。イッショニ、オキナワソバヲタベマショウ!!」

きっと青い目はこう言ったにちがいない。
「オー、マタアイマシタネー。カミサマノオボシメシデス。ワタシタチハ、ウンメイノアカイイトデムスバレテイマス。!!」

やつは手強い。
青い目「スピーク、イングリッシュ?」
ワシ「ひえー、ノーノーノーノー」
ずっと英語は赤点だった。悲しい!!
青い目「ワタシ、スコシジャパニーズオボエマシターネ。ジャパニーズデハナシテミマショウ」
ワシ「むー、おヌシやるじゃないか」
ホッとする。
青い目「ナハデ、アイマシタネ。アナタドコイキマスカ」
ワシ「南海岸でキャンプだ。無人の海岸を歩こうと思っている」
青い目「キャンプデスネー」

リュック姿からすると少しは歩けるかもしれない。
ワシ「おまんも行ってみるか?」
青い目「キャンプノドウグハ、モッテナイネー」
ワシ「テントは二人寝れる」
青い目「ホントデスカ?デハ、イキマショウ。デモ、ワタシアマリ、ジカンナイネ。フランス、カエルヒコウキチカイ!」

日本でなにやら仕事してたフランス人で、帰国前に日本の端っこの沖縄を旅行中らしい。年齢はワシより五つくらい上だろうか。
もちろん名前を聞いたが、今となってはもう判らない。とりあえずフレンチでいいか。
一泊しか出来ないけどキャンプには行くというので、黒目短足と青目長足とのコンビが出来た。

キャンプ地へ向かって

てれてれと豊原部落まで、二人で1時間歩く。
以前の相棒の浜崎君は鹿児島に帰ったのは知っていたので、前回世話になった南風見荘は通り過ぎて南風見田の浜に出る。

そこからはボーラ浜、ナイヌ浜と、前回同様、砂浜や岩場、海の中を二人てくてくと歩く。
砂浜で休息しては地図を広げて、現在地などを確認する。
ワシが周囲をキョロリとして、5万分の1地図でこの浜だろうと指差す。
と、フレンチは廻りをキョロキョロとして「チガイマス、コノハマデス」と隣を指差す。
「コノ崖ノシルシハ、アソコノ崖ノコトデス。コノデッパリハ、アソコノ岩デス」
身振り手振りで、見事に訂正されてしまった。

大浜(ウフハマ)に着き、今日はここでテントを張ることにしよう。名のとおり大きな砂浜で水もあり、キャンプには気持ちいい浜だ。
しかし今回も天気が悪く、風も強く雨も降り出しそうな気配。
キャンプするについて、天気予報の入手方法が気になっていたので、石垣市の電気店で、当時では世界最小がうたい文句のソニー製のAM・FM薄型ラジオを、1万2千円も出して購入した。
小型の手帳くらいの大きさで、当時では珍しく、単4電池を2本使用するものだった。
アンテナには、ネックレスの鎖のようなのが20㎝位ぶら下がっており、全身銀色のしゃれたデザインだ。

夕刻の天気予報でも聞けないかと思い、リュックから取り出して操作していると、
フレンチ「ワタシモ、オナジラジオ、アキハバラデ、カイマシタ」そうか、フレンチも世界最小が好きか。

世界最小サイズには満足していたが、いくらチューニングしてもFMもAMもまったく入らない。
大原部落からわずか半日歩いて来た距離だし、正面はるか沖合には波照間島もある。
電波を拾ってくれて良いはずだが、世界最小は皆目音を出さない。大枚1万2千円は無駄に終わった。

…後日、何かの山の本で読んだ。
なぜか山岳地帯では、安物のラジオの方が、雑音の中にも電波が入ると。
世界最小は値段を反映して、選局機能も優秀で、弱い電波は切り捨ててしまうのだろうか。

この世界最小は30年以上経ってまだ健在だが、街中でしか使用していない。
近年、ラジオをアウトドア用に新調しようと、あちこち安物を探しまわり、名刺サイズのアイワの2千円を選んだ。
これはまだ僻地で試していないが。

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