西表島・山の道1~蛭と蛇

山の道行きを計画する

一晩中季節はずれ台風が吹き荒れて夜が開けた。
風はときおり、ゴーー、ピュウウと吹き、雨はまだ強く降ったり止んだり。

オレ達、空を見上げては「うん、台風は過ぎていくようだし、天気は良くなる一方だろう」
「おー、台風一過の爽やかな天気が来るだろう」

二人は2~3日前から海の次は山だなと話し合っており、五万分の一地図を出して計画を練る。
「西表縦断の山道を歩かないか?山道の中間当りに、小さな無人小屋があるらしい。そこに宿泊しよう」
「南端の豊原部落から北の祖納江まで全部歩きで縦断だ。一泊二日」
「カンピレー滝から1キロ下った船着場から、浦内の橋までの6キロは日に2~3便遊覧船があり、片道だけの利用ができる。しかしそれは利用しないで、船着場近くの稲葉部落廃村跡から干立の部落まで、廃道の跡が残っているはずだからそこを歩こうか。」

近年の地図には星立となっているが旧地図では干立だ。 
知らぬ間に出世していた。

サイズの小さいバスケットシューズではもう歩けないので、他の靴を探す。
古びた靴が出てきた。サイズさえ合えば結構結構。

一泊2日ぎりぎりの食料を調達して、雨の中出発する。装備は海辺のキャンプから釣竿を外して、鉈を加えたくらいか。2時間以上、一般道路と林道を歩いて、山道の入り口に着く。

山道はときおり小川を越えたりするが、普通の登山道のような感じで、道筋ははっきりしている。
ヒカゲヘゴやオオタニワタリ、ヤエヤマヤシなど、図鑑で見た巨大植物が絶え間無く出てきて、嬉しくなる。

ヤマヒルに悩まされる

中でただひとつ嬉しくないのがある。
ヤマビルだ。
山道に入ってすぐ、靴下やズボンの裾が血に染まることに気づく。あれ何だろうと良く見ると、蛭が片足5匹ぐらいズボンの中で、スネのあたりにぶら下がっている。また、靴下を脱いでみると、織目を通して数匹潜り込み、これまた血を吸ってぶら下がっている。
通常、爪楊枝を半分に折った位の尺取虫のようなのだが、血を吸うとピーナツ位の団子になる。

ウリャー、これはなんて気味悪いんだ。
バタバタと足踏みしたり、ブンブン足を振ったりするが、もちろん落ちるはずも無い。手で摘まむのも気味悪いので、煙草の火を押し付けたりするが、どうやらナイフでこさぎ落とすのが早いようだ。
Hとお互い、首筋など体の裏側をチェックする。
不快さにいっぺんに気持ちが落ち込む。
その後、2~300m歩く度に蛭チェックタイムとなる。

どうも木の上などから降ってくるのは少ないようだが、いつのまにか足元から、すばやく這い上がってくる。
雨で特に多いのだろうが、だいたい100mに2~3匹という感じだ。僅かの隙間から難なく進入してくる。
なんとか防御したいが、持ち物を考えてみると、現在のところ防ぐ術がないようである。
ゾンビかストーカーに付け狙われているように攻撃はしつこく、止むことは無い。

「チキショウ、こんなのに気を取られるのはいやだー」
付いた蛭を取り除き取り除き、山道を歩く。

「ん、こんな所に良い物が落ちている!」
わしらは見つけた。
誰が落としたか、ビニール製の肥料袋の空袋が数枚、道端に落ちている。

「ウーム、これは蛭避けに使えるぞ。」
ルーズソックスのように長ーい肥料袋の靴下を履くと、ソックタッチの変わりに紐で膝下を縛って、靴を履く。
バサバサ・・・・ガサガサ・・・
足をゴワゴワのスパッツで防護して歩く。蛭が着くとぺんぺんと払えば、すっ飛んでいく。
いいぞ、ふふふ。
最近では蛭避け剤も有るようだが、細目のストッキングを履くと良いと、後で聞いた。

大型の蛇に絡みつかれる

前方、登山道の上で体長2mを超える大きな蛇が、休んで邪魔している。見るとハブではないが、とにかく大きい。
サキシマスジオという大型の蛇か?
こいつはアオダイショウに近いと聞くが、後で調べるのに、写真を撮っておきたい。人の気配で蛇は逃げようとしている。Hもハブでないのを見て取り、素早く右手で首を鷲掴みにした。オレは慌ててカメラをリュックから出そうとする。

H「ウッ、早くしてくれ」
あっと言う間に大蛇は、Hの右手をぐるぐる巻きにして、ぐいぐいと絞り上げている。
H「早く撮ってくれー」
「おー、少し我慢してろ」
オレがリュックの蓋を上げたり、とじ紐を緩めたりしている間に、更に締め付けの圧力が加わっているらしく、Hの右手は蛇の首筋を掴んだままだが、締め上げられた腕は前方に伸びきって、顔は引きつっている。
H、たまらずにウワーと力いっぱい右手を振ってほどくと、蛇君はシュルシュルと藪の中に逃げてしまった。
惜しくも、写真を撮る間もなかった。

ハブにはハブ・トカラハブ・ヒメハブ・サキシマハブの4種があると聞く。ここ八重山諸島には、サキシマハブしかいない。
その毒はハブに比べやや弱く、死に至ることは少ないともある。
ここ10年、石垣・西表では、サキシマハブによる死亡者はいないが、噛まれると恐ろしく腫れるらしい。
一度ハブと御対面してみたいが、突然足元に居たりすると、やはりびっくり仰天なのだろうか。

ものの本によると、国産陸棲蛇32種のうち、28種が南西諸島にいる。うち南西諸島固有種は21種、内毒蛇はクサリヘビ科の4種のハブの他、コブラ科に属するヒャンと亜種のハイ、そしてイワサキベニヘビの計7種となっている。まさに蛇天国、毒蛇の楽園ということか。

昭和中期には、年平均700人がハブに噛まれ、平均5.3人が死亡しているとある。多くは2~24時間で落命するとあり、死に至らずとも、手足に重大な後遺症をもたらす。
細かい数字は忘れたが、平成になってからは年に100人前後が噛まれ、死者は0~1名くらい。

ちなみに沖縄本島より南の、宮古・八重山を指して先島といい、石垣島附近一帯の島々を八重山というらしい。

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