宮古島・労働篇4~援農隊

青年援農隊?

そして、約20年の歳月をかけた南西諸島のウリミバエ根絶作戦は、成功した。現在も外部からの侵入に備えて、定期的な不妊虫放飼は行われている。
検疫検査に合格すると、各箱に合格印が押されて、いよいよ出荷となる。
百数十個のカボチャ段ボール箱は、我らの手により2トントラックに高く積み上げて、荷崩れしないようにロープで固定される。

荷を高く積んだシングルタイヤのトヨタ2トントラックは、左右にゆらゆらとしながらゆっくりと平良港に向かい、輸送の船の側面に開いたドアに電動コンベアーを接続する。我らはカボチャ箱を次々と、ベルトに一定間隔で乗せる。
その積み込み風景が、なんと宮古島の新聞に大きく掲載されたのだ。なんだかカラー写真だったような気もする。農協職員の喜舎場さん?だったかにそれを見せてもらう。

見出しはこんな調子だったか。
「いよいよ本土向けカボチャの出荷始まる!本土からの青年援農隊も活躍!」←こんな感じというだけで、ワシの創作です。

記憶は定かではないが、援農隊という表現があったような気がする。
そこで恥ずかしく感じたのは、我らが自発的計画的な季節援農者として、ここ宮古に来た訳では無かったことだ。
我ら「うひゃー、援農隊。ただ流れ着いただけなのに、恥ずかしー!」

そしてこの頃になると、農協敷地内の屋外水道栓で「うおー!冷たい!」といい加減な水浴びをしていた我らの体は、異臭を放つようになったらしい。
与那覇課長「あなたたちね、汗臭いよ!もー、平良市の銭湯にでも行きなさいねー!」と指令を受ける。
我ら、寒さに耐えてチョビチョビザブザブと、超特急の洗髪と水浴びを繰り返していたのは確かである。

久しぶりで銭湯へ

バスに乗って出かけた街の銭湯は、約二十日ぶりほどの湯船であろうか。
湯船を汚すといけないので、洗い場で予め体を湿らせておき、タオルで擦ってみると、それはそれは目を疑うほどにゴソゴソワラワラと垢が湧き出てくる。
ひとこすりでヌルー、ふたこすりでズルー、ゴシゴシこすりでボロボロー、体全体が消しゴムになったように、コロコロと垢が出てくるので、非常な爽快感に満たされる。

皮膚が2枚も脱皮したような感覚におそわれ、消しゴムはなんだか体重も軽くなるし、見た目も一回り擦り減ってスリムになった。体温の放熱も容易になり、色も白くなったか?

いけない、地元の入浴客がちらちら我らを見ている、目立たないように垢を落とさなきゃ。
人生でこれほど大量の垢を一度に落としたのは、あまり記憶にない。
あー、足骨折でギブス外した時も、皮膚垢出たなー!

農作業を体験する

農協での作業は、カボチャ出荷だけではない。
すぐにニンジンの出荷が始まり、膨大な数の人参を選別し、10㎏に計量、箱詰めする作業が並行することになる。
ニンジンにおいても、はね物の中から数本を我らが頂くのであるが、残りは時たま荷車を引いて来る馬がいて、その宮古馬がボリボリと食することになる。
これらカボチャやニンジンのはね物は我らの重要な食料となり、来る日も来る日も、カボチャやニンジンの炊き込みご飯、カボチャの煮転がしのメニューが続くが、調理担当のワシに料理バラエティーがある筈もないので、それは仕方ない。
それに時折インスタントラーメンと魚肉ソーセージなども織り交ぜている。

連日の炊き込みご飯に飽きようが何しようが、そんな贅沢を言っている状況ではなく、貧乏旅人は文句言わずに食べ続けるしかない。監獄の飯と思えばまだいい方だ。
炭水化物の単調な食事に耐えられなくなったYは「肉・肉ー!」とここ数日は駄々っ子のごとく発狂している。
なんだよこの位!トウモロコシスープしか飲めないアフリカ難民はどうすればいいのか。

京都の学生君 平安名岬、マムヤの墓、トイレ
京都の学生君 平安名岬、マムヤの墓、トイレ

農産物の出荷作業に隙間が空くと、牧場の牛の世話に出かける。
町内のキビ刈りが終わった畑を訪れて、切り落とされたサトウキビの先端部分をかき集めては、1トントラックに積み込み、持ち帰って牛の餌に用いる。
或いは草刈り場に出向いて草を鎌で刈り取っては牛に餌を与える。

牛の世話をしている農協雇われのおじさんに連れられて、一緒に行動する訳であるが、近所の人の話で「あのおじさんは草刈りが上手で早いからね」と聞いた。
それまで気にもしなかったが、草刈りが早いおじさんと異名を持つとは。
一緒に草刈り場に行った時、注意して観察した。

真面目に働く 牛の餌やリ
真面目に働く 牛に餌をやる

ワシは草刈り場にしゃがみ込んで、右手に握った鎌を懸命に動かして、サクサクと自分なりに草を刈り集める。
右側にいるおじさんを見ると、右手に持った鎌はシャーシャーザクザクと音を立てて草を刈り集め、刈り取られた草の束は鎌の動きに導かれるように、おじさんの左方向にシュルシュルと一列に集まってくる。

「うーむ、話のとおりだ。ワシの倍ほども速い!」
ワシが使っている鎌をおじさんに研ぎ直してもらって、新たな体制で草刈りに挑む。
見よう見まねで鎌を振り回してガッシガッシと右手の動きを速めて草を刈る。…草を刈る。
「だめだ、到底追いつけない!」
ワシがいくら頑張っても、刈りとる草の量は半分程度であった。

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