再び西表へ2~テント失敗

テント設営するのだが

さて、短い草が絨毯のようにふかふかになった、平らな場所がある。今晩のテント設営に取りかかろうか。
モンベルというメーカーの、2~3人用黄緑色の三角ツェルトだ。
二人は充分寝ることが出来る広さのはずだ。
近年のドームテントと違って、両サイドに支柱を立てて、張り綱で前後に固定しなければいけない。
テント本体を草の上に広げ、次いで支柱の袋を開けると、箸ぐらいの太さの、グラスファイバー製のポールらしきものが8本位出てきた。
オヤッと思いながらも繋いでみると、やけにフニャフニャして出来損ないの釣り竿のように柔らかい。
4本づつテントの前後に立ててみようとするが、長さも強度もテント支柱には無理なようだ。

おかしいなと思いつつもテントを隅々まで調べていくと、テント内側の中央下部両端に、箸が丁度入るくらいのポケットが二カ所あり、その上部には長さ10㎝位の二本の紐が何カ所かにぶら下がっている。

8本全部繋いでポケットに両端を差し込み、所々を垂れ下がった紐で結わえると、ポールはぴったりの長さ。
テント内側から外に向かって、テント中央をパンと広げるためのポールであるらしい。

三角テントでは天幕中央がだらんと垂れ下がりやすく、風でバタツイたり居住性が悪くなるのを防ぐための、インナーポールであることが判明した。

フレンチ 「ユウハ、イチドモ、コノテントヲ、ヒロゲタコトハナイノカ?」
カタコトの日本語で、こんな意味が読み取れる。
オレ「ない!」

支柱の袋が付いていたので、何の疑いもなく買ったままの姿で持ってきていた。
今思えばたしかに、店員がポールがどうとか言っていた気がする。よく聞いていなかった。

オレ「どこかで木の枝を切って、支柱の代わりにするか」
フレンチ「モウ、クラクナル、コノママ、ナントカ、ヒロゲテネヨウ」

寝心地の悪いテント

そうかい? じゃやってみよう。
インナーポールのみで張られたテントは真ん中だけが高くなり、前後はぺしゃんと地面に着いている。

天気が悪いので早めの夕食を済ませてぺちゃんこテントに潜り込む。
床面積は充分二人分あるが、空間はお腹の部分だけで頭と足はテント地が体に触れている。寝てみてこれは、非常に具合が悪いことを実感する。
体を動かすたびに、風が吹くたびにテント生地がカサカサと音を立て顔を撫でる。その度に目が覚める。
また、時折雨が降ると顔の上ででポタポタと雨音がするし、顔が冷たくなる。テント設営のとき、頭にあたる部分をインナーポールで膨らましておけばよかったと気付くが、もう遅い。

うつらうつらしては寝心地の悪さに、はっ!と目が覚めるのは、前回同様だ。これは西表キャンプの宿命なのか。

隣のフレンチも、寝心地は悪そうにしている。
俺のドジのおかげだ・・・へへへ。

ドジ続き

…沖縄に関するドジはまだある。
何時だったか、ワシは博多港から那覇行きのフェリーに乗るつもりで、リュック担いで自宅を出る。
港の切符売り場に着くと、人気がなくてガラーーンとしている。
切符売り場のカーテンは閉じて、誰もいない。

訳が分からずキョロキョロうろうろしていたが、船のタイムスケジュール表を見ていてハッとした。

なんと船が出たのは昨日だったようだ。
毎日が日曜日のオレは、痴呆老人のように日付も曜日も判らなくなっていた。
次の那覇行きは4日ほど後だ。
あまりの馬鹿さ加減に、しばらくそこにポカーンと突っ立っていた記憶がある。

また、ある時、那覇から宮古島に向かって夜間のフェリーに乗った。
宮古島の民宿には、明日着くからねと電話をしておいた。
一晩乗って朝になり、まもなく到着ですのアナウンスがある。
毛布から出て、顔を洗って甲板に出てみる。
やれやれやっと着いたかーと、しばらくぶりの島影を見る。
お好み焼きのようにぺッターンとして真中の低い盛り上がりに、自衛隊レーダードームの宮古島の島影が見えるはずだ。
「んーッ!!おっ!あれれ!」

めざす島影は一部が数百メートル高くそびえており、様相が異なる。
その左手の彼方には、雲に隠れた大きなもっこり島が、さらに左手には、平らな小さい島がいくつか見える。
「あー、ここは石垣島だーー!」あぜーーん・・・
やがて船はいつもどおり、静かに着岸する。
肩を落としたオレは足を引きずって、タラップから下船する。

先島航路はたしかニ社位の海運会社が、
那覇→宮古→石垣→那覇
那覇→石垣→宮古→那覇を3~4日で行き来していたから、どこかで乗り間違ってしまった。
あれほど先島方面や離島をうろうろして、ベテランの域に近づいていたが、このボケた旅行者は今回は目的地にも行けないのか。

その時は、今は石垣にも西表にも波照間にも与那国にも用もないし、行き先変更しようにも道具は宮古に置いてきている。今晩は石垣に泊まり、明日の夜の船で宮古に行くしかない。

「あー、おばさんかい、明後日宮古に到着するよ」
常宿のおばさん「アガイー、あんた昨日船に乗ったんじゃなかったかー」
「うん…ちょっと…」

ちなみに「アガイー」とは宮古方言で「あれまー」とかいう意味だ。
オレの鼓膜にアガイー、がグサッと突き刺さる。

さて朝になる、寝不足の体に鞭打って起きると、簡単な朝食をすます。
天気は雨こそ降らないが、すっきりしない。
フレンチ野郎はこのロケーションが、とても気に入っている模様だ。

雄大な眺め

草の上でくつろぐ。
目の前は黄緑色の礁湖が開け、沖合のリーフで波が砕ける。
その先は農紺の太平洋に、遠く波照間島が浮かぶ。
純白の長い砂浜を過ぎると、ヒルガオの花咲く低い草原がつながり、そこにはリュウキュウアサギマダラなどの大型蝶が飛び交う。
草原の背後には鬱蒼とした樹林が続き、すぐに絶壁の岩肌がそそり立つ。
ぺちゃんこテントが、頼りなさげにパサパサ動く。
青い目と短足以外は誰もいない。
自然に包まれて、ゆったりとした時を過ごす。
……素敵でしょう。

充分くつろぐと、フレンチは1人でゆっくりと歩いて、大原に向かった。
パリに来たときは遊びに来てくれと、住所を渡してくれたが、そう簡単にパリには行けそうもない。英語もからっきしなのに。

…あれから長い月日が流れて、名前も住所もすでに解らない。

再び西表へ2/2