宮古島・労働篇2~農協へ

絶体絶命のバイト探し

朝早く宮古島平良市に下船した3人は、船着き場ロータリー近くの公衆電話ボックスにかじり付く。
3人の中では一番適任との理由で、ワシが電話役に押し出された。

確かにYは博多弁丸出しの田舎者だし、いつも口に食べ物が入っているせいもあり、滑舌が悪い。しかも人の話を最後まで聞かずに遮り、次の話題に移ろうとする悪い癖があるので、交渉ごとは不向き。
そして学生はいかにも頼りなさそうだし、鳥取育ちの妙な関西なまりなので、警戒されてしまいそうだ。

さて何処に電話しようか。平良市、上野村、城辺町、下地町の選択しかない。伊良部島は離島なので無理。


まずは上野村(うえのそん)農業協同組合、ここは読みやすい漢字と優しげなその響きに魅かれて、一番候補。
「あのー、本土から来たものですが、何処かアルバイトを雇いいれることが出来そうな農家に心当たりがあれば、紹介願えないでしょうか」
農協「あー、そういう事ねー。ちょっと待って下さいねー」近くの職員に聞いている模様だが
「御免なさい。すぐにはちょっと思い当たらないねー」

城辺町(ぐすくべちょう)農協「はい、せっかくだけどそういう農家はわからないですね」
世の中甘くはないぞ!目の前が暗くなる。

やばい、電話代が20円30円と、ストンストン、もう我らのチャルメラの一袋分が消えた。 あー、このままズルズルと電話しまくったら、ラーメン代がどんどんと!

下地町農協へ

次、ししっ…下地町(しもじちょう)農協、ああーっ緊張するー…
下地町農協の女性職員「あー、はい、農家のアルバイトねー…(少し考えて)…待ってねー、組合長に変わりますね」
電話の向こうでボソボソ。
沖縄訛りの抑揚で組合長「そーね、あなた達何名ですか?3名?…はい、農家じゃなくともこの農協も忙しくなる時期ですから、まずここに来てみてください。バスを役場前で降りればすぐわかりますから、下地町営バス与那覇線に乗りなさいねー」
更に「歩き?歩いてでは遠いですよー。バス賃40円ぐらいだからバスに乗りなさい。午後は私、事務室にいますからねー」

ワシ「おいっ、なんだか農協で働けそうだぜー!!!」
「本当か?」一同、おおおーー!雄叫びのひと時。
これで一安心して、パン一個ぐらいの昼飯が食えそうである。
そしてYに「おい、お前。真面目に働かんと、ワシら路頭に迷うことになるぜ」一番ヤバそうなやつに釘を刺しておく。
Y「そらそーたい、太平楽いいよったらクビになるばい!」

バス賃を支払い、役場前で降りると10円玉が4~5枚残った。
そして午後、3人は下地町農協で組合長の面接を受ける。
組合長「では忙しい時期は2カ月程だけど、この農協で働いて下さいねー。カボチャの出荷、ニンジンに続いてスイカも出荷するのでいろいろ仕事はあります。明日から与那覇課長の指示で動いて下さい」

そして農協の2階が集会ホールになっており、宿泊設備こそ無いが調理実習室もあるので、ホールの隅のほうに寝泊まりしてもよいとのこと。
ワシらは2階ホールに案内された。
ステージ裏に畳が数枚あるので、寝袋の下敷きに使用させてもらう。
さらに婦人部向けの調理実習室は、ガス、鍋釜、もちろん水道も完備されており、自由に使用して良い。ただ、風呂は無いので、少し寒いが屋外で行水でもしなさいとのこと。2階は独立階段で、夜間も外と出入りできるので問題もない。
こんな願ったり叶ったりの条件はない。寝袋ひとつで働くことが出来る。

更に更に、毎日カボチャ、ニンジンなどの出荷物には、痛んだはね物が出る。どうせ牛馬の餌にするだけだから、自由に調理して食べて良いとのこと。
日当も悪くはないし、働きながら旅費を蓄えるには、こんなうってつけの環境はまたとない。素晴らしすぎる。

JAおきなわ
JAおきなわ(今でもあまり変わらない)

言いにくいお願い

しかし農協さんには、明日からの仕事の前に、大事な今日のお願いごとがあった。
Yは横から、ワシにこのあり得ない言葉を早く言うように、つっついている。
そんなことは分かっているが、さすがにスルッと言える内容ではなく、あまりの貧乏さと無計画さを露呈するようで、恥ずかしいではないか。

農協の専務さんにワシ「…あのー…明日のアルバイト代金一日分を、前借りすることはできませんか?…我々、今日の夕食代が無いんです…」
専務「えっー!晩飯代も持ってないー?そこの食堂でソバ食べても200円しないさー!」
ワシ「じゅ、十円玉が少しあるだけです…」←いい大人がこんなこと言えるかー?
専務「ひえー!あんた達そんな状態で旅しているかー!」
農協職員全員に、大笑いされてしまった。

我々がどれだけ貧乏なのか、大発表した様なものなので、これからたとえ1日200円生活を実施しても、誰も変には思わないだろうし、これで何だか妙に胸がすっきりした。

下地町に来て3日もしないうちに、すぐ近くの駐在署から、我々3名は身分を証明出来るものを持参して来署するように、との伝達がある。
年配の警察官からジロジロと観察されながら、住所氏名の他にいくつか質問を受けた。

駐在さん「いろいろ聞いておかないとね。赤軍派の一味が地方に逃れている可能性もあるのでね」
そういうことか。

次へ | 労働篇2/5