おはようおじさん
おはようおじさんとは？
五月に沖縄に行ったとき名護の町外れで、「おはようおじさん」を見た。知ってますか？
ホンダのバイクに異常に沢山の荷物を積んで、日本各地を旅してる変な人で、今はヘルメットに五十個位の造花を張り付け、前後に長く怪獣の頭みたいになったのを被っている。
以前はチアガールが使うポンポンをつけてたらしいので「ポンポンおじさん」とか「花おじさん」とか言われるらしいけど、本名は「おはようおじさん」だとか。
以前週刊誌で見てたのですぐに判って、レンタカーをＵターンして逆戻りしてインタビューを決行。そう、ワシも魚は釣れないし暇だったから。
おはようおじさんは、かなり汚い。
おじさんはローソンの駐車場で、パイナップルの缶詰を缶から直接食べていた。
おじさんは汚かった。
日焼けの顔と体に、１０日位は風呂入っていないだろう垢を蓄積していた。もてる荷物のすべてが古びて、清掃されてなくて、おじさんと同じくらい汚かった。
古びたバイクは山のような荷物に覆い尽くされ、ありとあらゆるところにコンビニ袋がぶら下がり、基礎英語か何かの本が１０冊以上シートの上に汚れて積んである。
ハンドルバーにはバケツが下げられ、中には蚊取り線香のこれまた汚い缶が。
バイクは125CCの旧型のホンダＣＢかなんかで、荷台には大量の竹の束が１ｍも後ろにはみ出して積まれ、角材も何本も積まれている。２ｍ位の長さの道路工事の工事区画に使うプラスチックの棒（カラーコーンに被せる虎模様のバー）も。
何本も積まれている。竹やこのバーは何に使うのだろう？
やがてその謎は解けた。
角材はなにやらテントの部品らしく、その説明をしてくれた。
おじさんはよく、このバイクの上で寝るんだと！！
荷台に結ばれた竹の束の上部からこの長いバーを４～５本引き出して、端っこをハンドルバーの上に乗せると、ハンモック状というかベッド状というか、人が寝そべれるくらいの台が出来る。その上で仰向けに就寝するとか。
起き上がるときは、両ハンドルの下側に左右の足の甲を掛けて、腹筋運動の要領でむっくり起きるという。昨日も海洋博記念公園の陸橋下でそうやって寝たらしい。……ふーむ。
よくバイクが倒れないなーと観ると、バイクスタンドになにやら頑丈そうな鉄の棒が溶接してあり、どうもそれなりの工夫が在りそうだ。昨日は蚊が多かったが、金鳥の蚊取り線香はよく効くなー、とおじさん満足の様子でした。
約一年かけて一県をぷらぷらするので、九州だけでも１０年近くかかったという。もうかれこれ２０年以上こうしていて、沖縄に帰ってきたのは１０年ぶり位なのだと。
でも３年に一度は、免許証の切り替えで短期帰郷はある、ともいっていた。
そう、このおじさんは糸満市の出身で、見るとバイクのナンバープレートも糸満でした。
ナンバーの写真を撮るのに、荷台に積まれた沢山の荷物が邪魔して、地べたに寝ころんで撮影するノブチンでした。
バイクは１代目がお釈迦になり、四国でようやく２代目を発掘したんだとか。
バイクに詳しくないが、とにかく旧型なのはわかる。
馬力不足で、２５０ｃｃだと良いんだけどって……そりゃこんなに荷物積んだら、さぞかし遅いだろうね。
もちろん無職だけど、多少なりともお金がいる。
資金は、横浜にいたとき新聞配達などで蓄えたのを、取り崩しているんだと。
目的は一言…「有名になりたい」…雑誌や民放では、変人として取り上げられたことがあるが、ＮＨＫだけはだめだなーと。以前、どこかの県のＮＨＫ前で何日も粘ったが、だめだったと。
交通安全か何かの大義名分でもあれば、拾ってくれるかもと。
モットーは…「２００歳まで生きよう」
将来…「宗教を興こしたいが、それだと地を定める必要があるしなー」
決めポーズ…「人差し指と親指でＬの字を作って（おはよう）と言いながら突き出す」
やってみてください（おはよう）（おはよう）
外国…「行ってみたいが、この格好だと悪者に殺されかねない、危険かもなー」
年齢…「約６０」
通行車両の窓から中高生が、「わっ、あれ見て！見て！ねー、すごいのいるよ」と騒いでいる。
するとおじさん、右手でＬの字を作ってにっこり（おはよう）。
ローソン店員の、小太りで眼鏡のおばさんがゴミ捨てに出てきたので、すかさず「すみませーん、このおじさんと一緒に写してくださーい」とカメラを出すと
おばさん…えっ！…小さく声が出たぞー、こんな汚い乞食と、ってな感じで！
「おはようおじさんといって、有名な放浪者なんですよー、もうかれこれ２０年も！」
えーーそうなのー、と不審そうにシャッターを押してくれた、ローソンおばさん。
おじさんに聞くこともなくなり「では元気で旅を続けてください」
おじさん…うん（おはよう）
ワシも若くから旅をしておった身、少しおじさんのことを羨ましいとも思う、じゃがあまりにも汚な過ぎる。
汚ギャル、じゃなくて、汚じい、だよ。
ワシがやるなら、もう少し清潔でスマートな放浪者がいいな。
「2005年ごろ」