寄生虫・Part3

寄生虫館を訪れる

東京に講習会で出張する機会があった。
1泊2日の講習が午後2時頃終わり、ワシは急ぎ足で山手線に乗ると、目黒駅で下りる。
一人ひたひたと目黒通りを歩く。権の助坂と云うところを過ぎて、歩くこと10分、目指す「目黒寄生虫館」を左側に見つけると、微笑が出る。
「寄生虫館物語」の巻末にある、目黒寄生虫館を訪ねてみたくてたまらなかったのだ。

8.8mのサナダムシ標本をはじめ、サザエ寄生虫、鯨寄生虫ボルボソーマ、ペンネラ、ヒトデ寄生虫、鹿に寄生するオオヒル、ムササビの腸に寄生する数万のギョウチュウなど、あらゆる寄生虫がホルマリン漬けになって、標本で見られる。近年では若者が大勢訪れ、一風変わったデートスポットとして、人気があると言う。
「いっしょに寄生虫見たねー」などと、デートの記憶もカップルに深く刻まれると言うものだ。一度ご覧あれ!

入館料 :無料
開館時間:10:00~17:00
休館日:月曜・祝祭日・年末年始
交通:JR山手線目黒駅下車、西口より目黒通りを等々力方面へ徒歩15分左側
住所:目黒区下目黒4-1-1
TEL:㈹03-3716-1264

サナダムシダイエット?

サナダムシダイエットというのを、聞いたことがあるでしょうか。オペラ歌手マリア・カラスが100kgから50kgにダイエットできたのは、腸内に「プリアカンテル」というサナダムシを寄生させたから達成できたというのだ。
ネット上では「サナダムシの幼虫恋し、売って、売ってー」というのがあるらしい。

しかし実に入手困難、ほしくても手に入らない憧れの的、と言うのが現実らしい。新鮮な幼虫をカプセルに入れて売り出すと、商売に良いかもしれない。

サナダムシは日に何万という卵を排出するが、残念ながらヒトは卵を飲んでも、体内に寄生させることは出来ないのだ。あくまで幼虫を取り込まなければいけない。

本来、人体から排出された卵は、川などを流れてミジンコなどに食われる。ミジンコを小魚が食べる。小魚は鮭鱒類の大型魚に食われる。そこで卵は幼虫に成長する。その鮭鱒を終宿主であるヒトが生で食う。
これでやっとこ、成虫に成長できるという過程をたどるらしい。

そこでどうしても、幼虫を食べなければサナちゃんを飼うことは出来ない。じつに至難の技、ウルトラCなのだ。
この点でも、ワシは実に何千人の内の一人という、選ばれし現代の真田人ということができる。

…ワシは回虫とサナダムシ、二つを体験する誇らしきエリート寄生虫人。回虫保有率とサナダムシ保有率を掛けると、相当な低確率にならないのかな…

しかし最近は、アジアからの輸入野菜や流行の有機栽培で、また寄生虫が増えつつあるらしい。さすがに近年は人糞は使わないだろうから、豚、鶏、牛糞などから野菜を経て、運良く頂戴する機会が増えたのだろうか。

このように、近年トレンディになりつつある、少し変わった体内ペットでは、やはりサナダムシが不動の地位にあるという。一つくらい寄生虫を持っていたほうが体によさそうだし、まずサナダムシはこのような長所がある。

1.吸血しない
2.消化器系に留まり、人体を迷走しない
(つまり回虫やフィラリアはたまに迷走し、人体にダメージを与える)
3.痛みや痒みがない(ギョウチュウはだめ)
4.自家感染を繰り返さない、他に伝染しない
5.体に良い
6.体内で飼える数少ないペット
(ノミ・シラミ・水虫、銭タムシは体表ペット)
7.姿が美しい?
8.手間いらず
9.ペットを手放すときも悲しくない
10.希少価値がある

と、たまに下痢でもする以外は、手放しで良いことだらけ。
どうしてもサナちゃんの幼虫が欲しければ、ひたすら生の鮭鱒を食うことか。
ワシは、ヤマメの親方のサクラマスを生食して取り込んだのではないか、と思っている。それはこのようないきさつだ。

因果応報?

ある大雪の真っ暗な夜、30cm近く雪が積もった広い駐車場の真中で立ち往生している、4WDの軽トラックを見つけた。
ワシは大型のジープ、日産サファリに乗っており、またレスキュー用のワイヤーや頑丈なロープを持ち歩いていたので、雪深かったが、何とか軽自動車を引き出してやることが出来た。

最初は暗くて判らなかったが、車を引き出した後で、その方は仕事で良く利用していた、50kmほど離れた民宿のご主人だと気付いたのだ。
ご主人は民宿の他に漁師もやっていたが、冬期間は客も少ないので、町に出てきて建設業の手伝いをしている、と言っておられた。

数週間後、自宅に不意に礼に見えられて、漁で揚がった実に見事な70cmほどのサクラマスを、1尾置いて行かれた。
素人ながらにも3枚に降ろして身は刺身に、中骨は汁にして食べたが、このとき幸運にも幼虫を取り込んだのではないか、と思っている。
これがなければ、こんな貴重な体験は無かったのだ。
良いことはするもんだ!

本来日本人は、鮭鱒を生で食べるのは少なかったらしい。
サナダムシ愛好家の皆さん、野生的で新鮮なサクラマスをばりばり生食しよう。
きっといつか憧れの幼虫をゲットして、誇れる希少体内ペットと、晴れ晴れしいダイエット人生を手に入れることができる。

このようにして、発見当時は気味悪いエイリアンに進入されたように思った、サナダムシや回虫も、時間の経過とともに知識や認識も変化し、ワシは今やいとおしく感じられるまでに進化した。
ヒトは進化するのだ。

前述のけったいな三重県人に電話でこのサナダムシ話を自慢したことがある。
翌年の戌年の元旦、彼から犬の絵の賀状が届く。
その犬はケツからサナダムシをだらりと垂らして、足元にはウンコをまき散らしていた。
めでたい賀状、ほんとにありがとう。

「寄生虫3/3」