寄生虫・Part2

述べたように、ワシは朝の8時半は下痢便が日常だった。
ある朝、会社でまたコーヒーと煙草の影響で便意をもよおし、トイレで勢い良く、軟便というか下痢便を排出する。

ふーーと落ち着き、ふと股下を覗くと、何やら肛門からプラーンときし麺のようなものがぶら下がっている。

「あれっ、何だーこれ。えーっと、あまりに下痢して腸の粘膜でも出てきたんかなー、そんなことってあるんだろうか」

よくよく見ると、なにか規則的な模様があるようだ。
「これは粘膜なんかじゃない、何かの生物だ!」
ウワワー、何だか背筋がぞーっとしてきた。

驚いてばかりもいられないので、ティッシュペーパーを右手と左手に持ち、がに股の股下に手を差し入れ、不気味なきし麺様生物を左右の親指と人差し指で交互に挟んで、ゆっくり引っ張り出そうとする。

甲斐あって20cmくらいは肛門よりズルズルッと出てきたが、そこで止まってしまった。
不気味な下腹部の感触に「ウッ、こいつは腸内に残したくない、全部出てくれよー」

肛門の筋肉を懸命に緩めてそろっと引っ張り出そうとするが、きし麺は外出を拒む。しばらく頑張ってみるが、ついに切れてしまった。

指に挟んだきし麺様生物を、ティッシュペーパーの上に置き直し観察してみると、色は白っぽい半透明、きし麺か長いカンピョウに似ている。60~70cmの長さ、幅は8mm~10mmか。
多数の節のような模様があり、中に核のような部分が見える。

もはやこれは、ワシの腸内に巣食ったエイリアンに違いない。
気味悪さのあまり、再び体に寒気が走り、頭が混乱してくる。

「こいつは確保しなくてはいかんなー」と思いなおし、一旦トイレから出て、割り箸とビニール袋をトイレに持ち込む。割り箸で掴んで水洗便器で丁寧に洗うとビニール袋に収める。

公共工事の監督をしていたから、記録写真は毎日撮影している。
外に持ち出すと、日陰で記録用黒板の上にSの字形に広げ、物差しを横に並べてカメラに収める。
ニコンの一眼レフだから、そこそこ写るはずだ。全体とクローズアップを各2枚づつ写すと、またビニールに戻して、更にA4版紙封筒に入れる。

エイリアンの断片を持って、また医者に行かねばならぬ。
どこがいいかなー考えているうちに、とある私立病院の内科医の先生の噂を思い出す。
「あそこの先生はねー、変わった先生なんだって。すこし判らなくなると、医学書を持ってきて読みながら診断するんだって」
変わった先生のとこに行ってみよう。

午後に時間を作って、病院を訪ねる。受け付けを済ませ、内科診察室に呼ばれる。
若い痩せ型の眼鏡の先生が尋ねる「今日はどうしましたか」
ワシ「肛門からでかい寄生虫が出ました。今日はそれを持ってきました」
右手に持ったままのA4封筒を目で指し示して振ってみる。

先生「えっ、…おおきな寄生虫…ですか…!」
少し驚いたように間があり、体を後ろに引く。
先生は恐々と封筒を受け取ると、やはり恐々と開封し、中のビニール袋をそろりと取り出す。

しげしげと見つめては、近くの看護婦にも見せている。
先生「初めて見るなー。じいちゃんがサナダ虫が出た-といってたのはこれのことかな」
「ちょっと待って」
先生は丸椅子を立つと診察室の奥に消える。
中年の看護婦が寄って来て、ワシに話し掛けてくる。
「あれはサナダムシよ。驚いたでしょう」

先生、何やら医学書を持って戻ってくる。うん、話に聞いたとおりだ。先生、医学書でサナダムシのページを広げると
「えーなになに、日本海裂頭条虫…幼虫は鮭鱒に寄生し、刺身生食やマス寿司を介してヒトに寄生する…か」
「鮭を生で食べたり、マスの押し寿司を良く食べますか」
そのままの質問がくる。
「刺身はあまり食べませんが、富山のマス寿司は時々食べます」
先生「そうか、マス寿司も駄目なのか。怖いなー」 
勝手に決めるなってんだ。

先生、ふと思いついたように「どこか外国に旅行したことはありますか」
「あります。以前も回虫が出ました」
先生「ふーむ、外国産の可能性もあるし、種類もはっきり判らないので、専門の所に送って調べてもらいましょう。関東にセンターがあるんですよ」
先生、看護婦に向かって「これを固定して」と告げる。
看護婦「固定ですか?」
先生「てごろな瓶にホルマリン浸けにして送りましょう」

「では1週間くらいして結果が来てから、駆虫薬を処方します。
薬はなにが良いのだろうなー、多分サナダムシということで用意しておくか。薬局にも無いはずだし」
先生、ブツブツ喋ると、また医学書を読み始める
「なになに、体重が65キロだと○○を一回に8錠かー、うーん30錠注文しておくか」
かくして、1週間後にまたくることになった。

なんだかモヤモヤした1週間を過ごすと、再び病院に来る。
先生「あー、あの虫は国産のサナダムシという結果がでました。駆虫薬を処方します」
「朝なにも食べないで、駆虫薬を8錠飲んでください。そのあと数時間したら下剤を飲みます。この下剤は非常に強力ですから、その日は仕事には行けません、駆除は休日に行なってください」
「それから念のために、同様の駆除を1週おいてもう一回行なってください。それから、駆除が終わって2週間位したら、検便を採って持ってきてください」

このようにしてワシは、薬局で16錠の駆虫薬と数錠の下剤、そして検便セットを受け取ると、病院を出る。
休みの日に駆虫薬と下剤を飲む。激しい下痢のあと、便を調べるとゴルフボールのように丸まったサナダムシの亡骸を確認する。わざわざ広げてみることはしなかった。
…南無阿弥陀仏…

1週おいてまた駆虫剤と下剤。数時間トイレの近くをうろうろする。残骸はもう出ない。めでたしめでたし。

病院に駆除の報告をかねて検便を持っていき、もう一度、検便結果を聞きに行くのを待っていたある日、その病院に勤める看護婦を妻に持つ会社の同僚が、ふいにワシに言った。
「あっ、何でも虫の卵は出なかったそうですよ」

ワシは言葉を失った。
別に寄生虫のことは、誰にも発表していなかったのに。
おいおい、看護婦は守秘義務があるんじゃないのかー?
すでに町中に、サナダムシ男の御触れが回っているのだろうか?
あーーこれだから田舎はいやじゃー!!!

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