ある時、マムシ酒を…Part2

マムシ酒を試飲

数ヶ月を経て、漬け込んだ「マムシ酒」を試飲してみる。
かのマムシ君は瓶の底でベターと寝ているし、目の玉は白変し、皮の一部が水ぶくれでブヨブヨしてきた。
大丈夫なのだろうか?

コップに5分の1程を注いで匂いをかいで見ると、妙に生臭い。
生臭いを超えて不快な臭気を感じるが、マムシ酒ってこんなもんだろうと思い直して、一口含んでみる。

「えー!マムシ酒ってこんなに臭いんかいな!」
口に含んだ瞬間に異様な生臭さが倍加し、鼻腔から抜けて噴出する。
これはもはや、喉を通しうる液体の限界点、いや、口内爆発寸前の臨界点だ。
「おりゃー!、えいや!」と、思い切って飲み込む。

二杯目のマムシ酒を飲む気持ちなど、すでに消沈。
しばらく体調を見ると、胃の底から何度となくウエップと生臭い異臭が、鼻に向けて突き抜ける。

青臭い強烈な臭気が胃を熱くし、フワフワと上昇しては鼻の粘膜にへばりつき、臭覚を刺激する。
そのうち吐き気もしてきて、その後はなにをしようにも胃と鼻の不快感から釈放されず、意識がそこから離れることはない。

5時間も臭気に悩まされたが、やっと薄らいできた時には、もうマムシ酒は飲まないと固い決心だけが残った。
もちろん下半身になんの変化の兆しも無い。
その後しばらくして、4本ほども作っていた「マムシ酒」を、全部ドブに捨ててしまった。
あんな生臭い酒は、いくら薬といえども飲めはしない。


つい近年も、S県の空き地に用事があり、そこでマムシを何度も見つける。
そこは田んぼ跡地にコンクリートの製品が置いてあり、ジメジメしているし、蛙などの餌が多いのか、出向くと三度に一度ほどの頻度でマムシに遭遇する。

マムシはコンクリート製品と地面の僅かな隙間、そう、7~8ミリの隙間にも、体全体の関節をはずしたように扁平になって、シュルシュルと入り込んでいく。この様を見ると、驚きもするし大変気味も悪い。

何かと危険なので、見つけるといずれも棒や鎌で殺しては放り投げて、カラスの餌にする。
マムシ酒にはしない。

書物から~ハブ酒の作りかた~
書物にハブ酒の作りかたがあったので、紹介しよう。

①捕らえて3ヶ月ほど水だけで養い、糞を出させる
②生ハブを水洗いする
③内臓の水洗いをする。ハブの口に水道の蛇口より水を腹中に飲ませては逆さにし、水を口から出す。これを数回行う。
④肛門の水洗いをする。同様に口から水を飲ませて手で上から下にしごき、肛門から排出させる。これも2~3回行う。
⑤泡盛の40度をハブに腹一杯飲ませる。
⑥局用エチルアルコール70度に1時間浸ける。
⑦泡盛か焼酎40度に漬ける
⑧朝鮮人参の親指サイズ2本、クコの実二号、イカリ草少々、ミリン少々を入れる
⑨冷暗所に2~3年保存する。
⑩ろ過精製する。

とある。かなり面倒だ。(児玉正任著「毒蛇ハブ」日本広報センターより)


登山者に教えられる
ある夏、黒姫山に登った。
黒姫山といっても、長野の黒姫山や、新潟県の石灰岩とデンカセメントで有名な青海黒姫山ではない。

なにしろ、青海黒姫山には、数十年前関西大学探検部が調査した、垂直深さ400mに及ぶ鍾乳洞の縦穴があるというのだから驚かされる。しかしワシが登ったのは、別の小さな無名の黒姫山だ。

日曜日に運動目的で、高さ890mのかわいい黒姫山に登る。
登山という程の山ではないので、他に人は誰もいなかったが、下山の途中で、年配の登山者とすれ違う。

お互いにこの山で人に遇うのは珍しく感じて、休憩を兼ねて座り込んで話をしてみる。
建築関係の仕事をなさっているということだ。
話の中で、山歩きの時は山菜などはもちろん、マムシを見つけたら捕らえて酒に浸けると聞く。

ワシ「ああ、マムシ酒を作るのですか。私も作ったことが有りますが、何しろ臭くて飲めずに全部捨てましたよ」
登山者「ほー、しかしそんなに臭くはならないのだが。どのように作っていますか?」
ワシは一通り説明する。
登山者はひとしきり聞いていたが
「それは梅酒用の焼酎では、アルコール度数が足りないはずだ。腐敗するだろう。マムシ酒用の45度を使わなければならない」と説明を始めた。

それに、蛇の皮がブヨブヨ浮き上がったりはしないとのことだ。
そういえば、酒屋でラベルにマムシ酒用とある45度の焼酎を見たことがあるが、ああはならなかった。
ワシ「ではあのマムシ酒が妙に生臭かったのは、蛇肉が腐って変質していたのですか!」
登山者「たぶん、そうです」

…またいつか、マムシ酒作りに挑戦しなければいけないようだ…。

「マムシ酒2/2」