マスク生地なんかのお話
麻のはなし 綿と麻の違い マスク生地の条件晒のはなし
ある方に、「マスク作ってますよ」、と言ったら「私も作ってみたんだけど、サラシを使ったので、肌触りがいまいちでした」と言っておられました。確かにyoutubeなんか見てると、「サラシって固いですね」とか、重なったところはうちのミシンで縫えるか心配…」という声もあります。
ガーゼが品薄なので、サラシにシフトされた方も多いようですが、肌触りとなると、サラシに規格が何種類かあるの、知ってました?
サラシは、日本独自の文化の中でも、実用性という意味では、とても優れた製品です。使い道多いですし、反物になった晒ガーゼというのもあり、服地用のフワフワしたガーゼとは少し違う製品で、当サイトでも積極的に裏地に使用しています。
晒の規格
サラシは規格によって、糸の太さや本数、幅が決まっています。その規格により、向いた用途も決まってきます。リネンテスターなる布地専用のルーペを使い、写真を撮ってみました。規格 | 糸番手 | 打込 | 幅 | 文生地 | 特岡生地 |
文 | 20 | 630 | 34 | ||
岡 | 20 | 750 | 35 | ||
特岡 | 30 | 930 | 36 | ||
ガーゼ | 40 | 43 | 34 |
けっこう楽しいですね、いろいろ見たくなってしまいます。上表の打ち込み本数は某メーカーのもので、多少違いはありますが、だいたい似たようなものです。
糸番手は大きい方が糸が細く、小さいほうが糸が太いので、20番>30番>40番です。
なんか肌触りが固くてサワサワするな、と思ったら、反物の幅を測ってみて下さい。34センチだったら「文(ぶん)です。
昨今のガーゼ不足の煽りで、たぶん規格を知ってる人は「特岡」を買ってしまうでしょうから、何も言わなければ、「文」だったのではないでしょうか。
当サイトでは、最初、一番肌障りのよさそうな「特岡」で作っていましたが、通気性って糸の太さと織りで決まります。あえて太い糸でザックリ織ってあって厚みのある、「特文」を使ってみるのも良いと思い、二本立てで作っています。何が何でも、目が詰んでいて柔らかいほうが良いとも限りません。
麻のはなし
夏の服地として定番の麻ですが、麻は特徴を知ってみると、とても優れた繊維です。実は「麻」と言ってもいろんな種類があり、別の植物です。
亜麻(あま=リネン)
苧麻(ちょま=ラミー)
大麻草(たいまそう=ヘンプ)
黄麻(こうま=ジュート)
これらが主なものですが、世界では他にも様々な植物が、「麻」という名称で流通しています。
日本では亜麻(あま)と苧麻(ちょま)だけを「麻」と呼ぶことになっていますが、このうち服地に向いているのは、亜麻(リネン)です。ラミーも少しゴツゴツしますが、肌着でなければ使えます。
他のヘンプやジュートなどは、その強靭さを生かして、園芸用品とかカーペットの土台とか、漁網、蚊帳、ロープなど、生活のいろんな場面で使われています。
今回は、リネンを中心にその特徴を述べます。
リネンは他の麻繊維同様、とても強靭な繊維で、綿の2倍の引っ張り強度を持ちます。濡れると更に強度が増すのが特徴で、以下の表で比較してみて下さい。
繊維種類 | 引張強度(乾燥) | 引張強度(湿潤) | 伸び率 |
---|---|---|---|
絹 | 2.6~3.5 | 1.9~2.5 | 15~25 |
毛 | 0.9~1.5 | 0.7~1.4 | 25~35 |
綿 | 2.6~4.3 | 2.9~5.6 | 37 |
麻 | 5.7 | 6.8 | 1.5~2.3 |
ポリエステル | 3.8~5.3 | 3.8~5.3 | 20~32 |
ナイロン | 4.2~5.6 | 3.7~5.2 | 28~45 |
これを見ると、麻は抜群の引張強度を持っていますね。ウールやシルクは、濡れた時には決して引っ張ってはいけないことが分かります。
強度は「撚り(より)」の方法によっても変わってきますが、これは素材としての基本的な強度の話です。
綿は日常生活で親しんでおり、織り方や性質は多くの方がご承知でしょうから、綿と麻(リネン)の比較で話を進めます。
綿と麻の違い
綿の特徴は柔らかくて空気を含みやすく、吸湿性も高いことですが、吸湿した後は一定時間、水分を保持する性質があります。繊維の中に水分を溜めやすいのです。また、綿は新しい時にはフワフワですが、繰り返し使用することで繊維が壊れ、これが埃となります。近代、世の中に埃が増えたのは、麻や絹の消費が減って、綿製品が増えたせい、と言われています。
その為、綿は使っていると、だんだんと生地が薄くなって、しまいに破れますね。
麻のほうは、綿と同様に空気を含むので、冬はこれが保温効果を発揮します。
いちばんの特徴は吸湿性と言われていますが、実はこの吸湿性は、速乾性とセットになってこそ、生きてくるのです。
麻は水分を吸収したらすぐに排出する性質があるので、夏はこれが、高い熱伝導性として大きな長所となります。涼しさというのは、熱が移動することによって感じるので、汗が出るのも、熱を水分によって体の外に移動させる事が目的ですね。
いったん水分を吸収したら、乾くのに時間がかかる木綿に対し、速乾性に優れた麻が夏の定番になるのも、もっともです。
保温性、速乾性、強度と三拍子そろった麻は、一年中活躍して良い繊維なのです。
以上、良いことばかりのようですが、麻生地には欠点もあります。
服地に使うとシワになりやすく、座っただけで折れ目がついてしまいます。服地に詳しい人なら「ああ、こだわりの選択でデメリットも承知で着ているんだな」と思いますが、シワを気にする人はします。
次に、伸縮性が低いので、縫う側から見ると縫製がやや難しい。くたっとなるのに伸びないので、修正も誤魔化しも効かない。
更に、洗うと縮むので、生地を沢山使います。特に初回の洗濯ではかなり縮みます。「ウォッシャブルリネン」なる製品もありますが、ウォッシャブルと銘打ってあるということは、もともと洗うのが難しいものなのです。麻製品を買う時は要注意です。
天然繊維の生地は縮むのは当然、という面はあるので、買う前にちゃんと洗濯タグと収縮率を見て、確認することが大切です。
筆者は全ての生地を、いったん自分で洗濯してから縫いますが、木綿なら数時間の水通しだけでもいけるものが、麻の場合はかなり入念に、縮むかどうかを見ます。
糸質、織り方、染め、その他加工のどれかが良くないと、洗濯するたびに縮みます。更に、良い麻製品は値段が高いのも、大きな欠点ですね。
今のところ、フレンチリネンがいちばん扱いやすく感触もよくて気に入っていますが、どこまでがフレンチリネンか日本製なのか、製品の最終工程国が製造国になるので、はっきりとは分かりません。
ただ、リネンは比較的に寒冷地で育ち、土壌の栄養分を奪う為、同じ場所で何年も生産することが出来ない、という事情から、日本ではあまり多くは生産されていないようです。
国産リネン | フレンチリネン |
試しに、両者の布目をアップしてみました。色や厚みが違うのに比べるのも何なのですが、アップで見るとどちらも太い糸と細い糸の混じった平織で、似たような感じに見えます。ところがこの生地は、ずいぶん感触が違うのです。
どちらも当ショップで製品化していますが、国産のほうは細かいプリーツをつけるのは無理そうなので、タックか、プリーツでもフワッとした仕上がりになります。
フレンチリネンのほうは、本当にスベスベなので、プリーツもいけます。
お洗濯のほうは、どちらも生地で洗い、縫いあがって使用したものも洗って試しましたので大丈夫ですが、基本的に手洗いなので、お洗濯のページを参考にして下さい。
こう見て来ると、物によって扱いやすさの差はあるものの、リネンというのは、高い吸湿性と速乾性、通気性の良さ、という点からして、マスクには最適な繊維であることが分かります。
今回は、ガーゼ、平織、メッシュ、ワッフル織などをいろいろ試した上で、目指す形に合う素材を組み合わせて、各種作っています。
布地というのは、同じ規格で作られていても、ロットごとに個性が違い、一期一会という側面がありますので、良いものは大切に扱いたいと思います。
他の素材
他の接触冷感とか吸湿速乾素材などは、否定はしませんが、スポーツ用でいろいろ着用していてもあまり好きになれないので、今の時点では制作に着手していません。でも、布地の手持ちはありますので、今後、コロナ感染の状態により、洗濯に気を使う天然素材だけでは難しいと判断した場合、検討させて頂きます。個人的には、木綿、麻、絹が中心で、合成繊維ではキュプラ、レーヨン及びそれらの混紡が許容範囲です。
キュプラとレーヨンは合繊繊維ではあっても、原料はバルプや綿で、石油由来の化学繊維ではありません。化学繊維の中では、唯一、ナイロンだけは好きですが、ポリエステルはどうしても肌触りが固いので、使えそうな生地が見つかるかは疑問です。
製品は基本的に、なるべく綿の表地には綿の裏地、麻の表地には麻の裏地を使用するのが原則ですが、デザインと生地の織り方によって、最適なものを組み合わせています。
新しいうちは柔らかさとフワフワ感が楽しめてお手軽に使える木綿製品と、最初は繊維ゴミが出やすくて縮むが、木綿の2倍以上長持ちして、使えば使うほどに馴染んでくる麻製品、あなたはどちらを選びますか?
マスク生地の条件
今回、自分でマスクをいろいろ縫ってみて、形は単純なようでも、意外に難しいものだな、と感じます。それは主に、素材に関することです。何種類か作っていると、見た目は良かったのに、明らかにマスクには向かない生地もあり、今更ながら不織布マスクはよく出来ているな、と思いました。しかしそれも、コロナ禍前の話で、今後不織布マスクが入手出来ても、粗悪品の確率が高いのではないかと心配です。
シャープの工場製など、信頼できそうな製品なら良いのですが、中国製でも、コロナ前の中国製と品質が同じかというと、甚だ微妙です。
更に、コロナウイルスの第二波、第三波の心配も拭えません。
マスク生地で何が難しいかというと、まず通気性が重要だということです。
通気性が良すぎると、ウイルス対策としては無意味ですが、これはフィルターポケットを作ることにより、カバーできます。当ショップの製品仕様は、Product~マスクの選び方~のページをご参照下さい。
次の問題は、布地の厚みと張りです。
ある程度の張りが無ければ、ペラペラでは口の周りに貼り付いて気持ちが悪いです。
洋裁というのは実は、表に見える布地の質以上に、芯地の質とアイロン技術、裏地の使い方、などで、勝負が決まる部分が多いのです。
どんなに薄くてダラダラした生地でも、要所要所に適切に芯地を使うことにより、好きな形に縫うことが出来ます。芯の使い方は、、まさに洋裁の生命線と言ってよいぐらいです。
昔はお針子さん見習いは、ひたすら「ハ刺し」なんてやったもんですが…今もちゃんとした縫い方ではやるかな?
ところがマスクの場合、一般的に使用する接着芯が使えません。
接着芯を貼ると、目が詰まってしまって息苦しくなるのと、接着剤が使ってありますから、万が一の化学物質の影響を考えると、不安が残ります。
また、汗をかく季節となると、十分な吸湿性が必要で、更に洗濯しやすい材質である必要があります。
そうなると、マスクに使える布地は非常に限られてきて、色柄の問題よりも、繊維の質や織りが、とても重要になってきます。
昨今は接触冷感とか水着の生地なども使われているようですが、筆者は接触冷感生地はあまり信用していません。水着生地は使い方によっては否定はしませんが、ねんじゅう水着を着ている人間としては、水着生地にもいろんな種類があり、どれでも使えるわけではないと思います。それに、水着生地を縫うには、ミシン針や糸も専用のものを使わなければならず、今の時点では優先順位は低いです。
そこでいろいろ研究した結果、夏用マスクには綿サラシとリネンが一番向いているという結論に達しました。冬には、ここにガーゼが加わります。
個人的にはコットンとシルクの混紡生地がいちばん好きなのですが、めったに売っていないし、シルクが入ると目が細かくなるので、マスクに使えるかどうか、現物で試さないと分かりません。
また、なぜ自然素材の製品群ばかり扱っているのにナイロンが好きかというと、当作者のサイトに解説がありますので、参考にして下さい。
カーペット素材の話なのですが、覚えておいて損はない知識なので、締めくくりとしてリンクしておきます。
内装のポイント、カーペット選び・後