2009年吐噶喇列島~中之島・悪石島・宝島~



吐噶喇をめざして

これは仕事をリタイヤしたR氏との釣り温泉キャンプ旅行である。
念願の吐噶喇(トカラ)列島を訪れることになった。
鹿児島と奄美大島との海上400km程の間に、小島11島が連なる僻地だ。
行政的には鹿児島県十島村(としまむら)であり、妙なことに村役場は、村外の鹿児島市の港の近くにある。
その為、職員の多くが村外の鹿児島市に住所があり、彼らは村内選挙でも税金面でも村に寄与しないという、全国でも風変わりな形態をなしているとか。

荷物運搬~おはようおじさんに近づいた~ トカラ列島地図

十島村は鹿児島に近い方から、口之島、中之島、平島、諏訪之瀬島、悪石島、小宝島、宝島の有人七島。無人島が臥蛇島、小臥蛇島、上ノ根島、横当島。

若い時から何度も地図をみては、トカラという不思議な響きと、悪石島(あくせきじま)や臥蛇(ガジャ)島などの怪奇な島名に心弾ませた。
宝島や小宝島も夢のある島名だし、諏訪之瀬島(すわのせじま)は数十年前には、あの独特な自由と平和と芸術の思想を持つヒッピー達の日本での開拓地として、有名になったこともあった。
元々、十島村(じっとうそん)は、現在の鹿児島県三島村(みしまむら)の竹島、硫黄島、黒島をも含む有人の十島からなっていたが、戦後のアメリカによる占領で七島は分断されてしまい、本土復帰後は、三島村と十島村とに別れてしまった。

そう、ワシは長い間、20年程もこの地を訪れてみたいとは思っていたが、なかなか実現できなかった地域である。
唯一の交通手段は、村営の「フェリーとしま」1,391トン、定員200人のみ。
正確には他に、高速チャーター船「ななしま2」定員12名があるが、チャーター料金が10~40万円もするので、一般客には縁が無い。

「としま」は月と金曜日に鹿児島港を出港し、2泊3日の名瀬便と宝島便を交互に航海して、有人七島を巡るものである。
旅人が島で2~3泊しながらいくつかの島を訪れようとした場合、結構な日数を必要とするのであり、10日位はすぐに消費してしまうことになる。
4~5日の旅程では簡単に訪れることのできない交通不便地であるとともに、ひとたび荒天による「としま」の欠航でもあれば、島から脱出することは出来なくなる。気象が静まるまで、やむなく延泊を余儀なくされるのであるから、会社勤めの旅行者などは、覚悟して乗船する必要がある。
小さな台風でも来れば確実に、4~5日は足止めになるだろう。

以前に4名で屋久島に行った帰り、鹿児島港で隣の岸壁に停泊中の「としま」の船腹にTOKARAと書かれているのを見上げるや、皆で「うわー、乗りたい!!」と羨望の叫びを発したものである。
全員、なかなか乗るチャンスが無いであろう、TOKARAと記された船体の意味をよく知っているようである。

短期旅行者にとってハードルの高い僻地なのではあるが、なかには割合と効率よく、多くの島を回る旅行者はいる。
フェリー「としま」は、全島を上りも下りも寄港するのであるから、彼らは各島での宿泊1~2泊を繰り返しながら、南北に連なる島を「としま」の往復航海に合わせ、南に北へと移動を重ねる。
つまり訪れたことがある島を飛ばしたりしながら、行きつ戻りつするのである。これだと、船賃は嵩むが時間はさほどかけずに、多くの島を訪れることが出来る。それでも10日以上で計画したほうが良い。
むしろ我らの様に、1島に3泊キャンプしてはひとつ南下するようなやり方は、時間が豊富な少数派であろう。(4月なのだが、キャンパーは2週間で3名しか見なかった)

事前打ち合わせは、バックパッカースタイルの歩き旅のはず。ワシは新潟をバスで出発し、東京と広島で乗り換えるという面倒なことをして、R氏の自宅がある佐賀県まで来た。
だがR氏はとにかく汗かくことがお嫌い。少しでも楽をしたいと、小型バイクを持ち込むことを譲らない。
そこで島内を少し機動的に動こうと、2名で1台の90ccカブ号を持ち込むことになり、鹿児島港までハイラックスでカブ号を運ぶ。

ライフライン としま 移動図書館 ハイラックスでカブを運ぶ



鹿児島港を出発

その行動のしかたは、島に着いたらまずワシがキャンプ地まで、すべての荷物をカブ号で一度運搬しておく。次いで港まで引き返して、R氏と二人乗りしてキャンプ地まで戻るというものだ。どうせ何処も小さな島だし、島内観光もカブ号に二人乗りしていけばいい。
吐噶喇列島には、小さな店が2~3軒あると調べてはいたが、悪石島には期待できる商店は無いらしいので、鹿児島市内で相当量の食料を買い込んでおく。

さて、鹿児島港の荷役受付で、先ずはバイク航送の受付を済ませなければならない。
受付のおじさん「はい、バイク何処まで?」
ワシら互いに顔を見合わせて「んーと、どこ行く?口之島にする?なっ、中之島でいいか!」
いずれ悪石島に行くことだけは決めていたのだが、その他は決めていない我ら。
七島もあるものだから、迷いながらも先ずは一番大きな中之島に行くことにする。受付のおじさんは、行き先も決めていない我らに苦笑いをしている。

胸躍るとしまへの乗船 巡回診療所があった サイの角のような険悪な様相

船内は整然としてる クレーンでコンテナを下ろす 諏訪之瀬島の噴煙

船は深夜の23時50分に出港すると、翌朝7時30分に中之島に到着予定。
翌朝は初めての吐噶喇に興奮して、早くから目が覚める。
沖縄などの離島も随分と旅したが、こんなに心弾むのは久しぶりだ。

鹿児島から船に乗って一晩だけなのだが、イルカとトビウオに迎えられては、順調にザンザンと波切って「としま」は進む。薄明かりの中で、遠く霞んで黒潮に浮かぶ小島たちは、既に屋久島などとはまた違った秘境感を醸し出す。
おー、やっと来たぞ!との思いがじわじわと込み上げてきて、身震いしそうだ。

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2009年トカラ列島1/3