自転車教室参加レポート4

二日目のアドベンチャー

翌朝、お尻は痛いが私は比較的元気だった。
前日、夕食が早くて夜食も取らなかったので、お腹がぐうぐう鳴っている。朝ご飯が美味しくてお代わり。
みんな元気がない。あまり眠れなかった人も何人かいるようだ。今日は別の場所で、別の自転車で練習とのことで、朝8時にファミリーサーキットコース前に、バスで全員移動。

また体操をしてから、今日の予定を確認する。
ところが、ここで残酷な発表があった。「今から名前を呼ぶ人は、こちらへ来て下さい」
3人の名前が呼ばれ、この人達はまだバランス取りができてないので、昨日の自転車広場に戻って特訓ということだ。
お、おい…3人だけ…可哀そう…だけど、この人達がどの程度だったのかは見てないが、指導者がそう言うのならば仕方ないかも。
むしろ、それだけちゃんと個人の出来具合をチェックしていたのならば、しっかりした指導と感謝すべきだろう。

自転車選び

今日のコースは一般の人も入って来る場所だし、ぶっつけ本番でサーキットコース走行だから。。。って、私は大丈夫なのかしらん…。かなり不安。

当日の練習は、まずヘルメットを被り、自転車選びから始まった。昨日みたいに練習用の決まった自転車ではなく、一般の人にも貸し出しているサーキット走行用の自転車で、いろんなタイプがある。
しかし、これが難題だった。A指導員は3人をともなって昨日の自転車広場へ去ってしまったので、ここの指導の中心はY校長になった。

校長というのは、よくわからないけど、自転車学校ということなのか?付属の競輪学校のことなのか?とにかく、その道のプロであることには間違いない。

校長が「まずこのタイプに乗ってみて下さい」というのに乗る……
乗ろうとするが、うーん…と爪先立って、よっこらしょ!とお尻を持ち上げてやらないと、サドルに乗っかることができない。26インチ?無謀だ。

私は身長157センチなのだが、最近かなりのデブになった。前はグラマーだったのが、いっときは仕事の都合で思うように稽古に行けなくなったせいで、はっきりとデブになった。
これで26インチは無理だ。だってお尻の肉が厚いぶん、足が地面から遠いんだもの。身長の問題だけではないんだぞ。
少し傾いた状態でやっと爪先がつく程度だ。
「足がちゃんと着かないんですけどぉ…」「それでいいんです」と校長。

うん、スポーツ車の乗り方ならこれでいいんでしょう。しかしこちらは昨日初めて自転車に跨るという体験をしたばかりのオバさんで、まだどっちに行くかは自転車に聞いてくれ状態なんだけど。足も昨日の疲れで思うように動かないし。
「おー、ちょうどいいね。はい、スタートして!」

けっこう強引なので、仕方なしに少し転がしてみたら、思いのほか乗りやすい自転車だった。確かに校長の言う通りだ。このサイズは私には快適。うまく乗れればね。
というよりも、自分に合った自転車のほうが、うまく乗れるのだろう。

しかし、コースに出かかったところで、やはりこの状態では完全に無理だとわかった。最大の問題は、昨日の疲れで、足と足首に全く力がないことだ。
傾いた時に爪先で支えようとしても、普段とは違ってまるきり足に力が無くてフニャフニャなので、全く支えることが出来ない。危うく足首が内側に折れそうになり、一発で足首捻挫間違いなしと分かった。

仕方なしに「やっぱり自転車変えます」と言って、次の選択肢として薦められた24インチの子供乗せ自転車にする。
これはけっこう安定して乗りやすい。子供乗せのカゴとかがゴチャゴチャついてるけど、まあいいか。あーあ、まだ足がちゃんと地面につかないので不安だ。サドルを下げて貰う。
「えー、またあ?」と渋い顔をしながら下げてくれるが、これで何とか乗れる状態になったので、思い切ってスタートする。

他の人も似たりよったりみたいで、昨日乗れたものがぜんぜん乗れなくなってて、ショックを受けている。理屈では乗れる筈なのだろうが、私と同様、疲れのせいだろう。
「乗れないー……」「こんなに乗れなくなってるなんて…」「ワタシも3人と一緒に、昨日のとこに戻りたい…」等々…

でも、もう引き返せないので、みんな思い思いにスタートして行った。私はまたしても発進でもたつきながら、恐る恐るコースに出て行く。


サーキットコースへ

このファミリーサーキットコースというのは、一般道路と違って、それなりにスポーツとして楽しめるように作ってあるらしい。
ということは、平坦な道のりではないのだな…。
こんな場所に入るのは勿論初めてだし、目の前に現れる道の形状が、とにかく初めてのものばかりなので、いちいちそれを乗り切るのに無我夢中だ。

くねくね曲がった道の両側は植え込みだが、うまくカーブを曲がれない為に、あちこちで、ザザーッ!バリバリ!ズズズズー、シャカシャカッ、バサッ!と、生垣を削りながら走ってゆく。
カゴの中に葉っぱが溜まってしまった。樹もさぞ迷惑なことだろうが、仕方がない…。

しばらく走ったら、突然生垣が切れてトンネルが近づいて来た。手前がかなり急で長~い下り坂だ。お、おい…こんなとこ、うまく走れるのかいな…と心の中でつぶやくが、いまさら止まるわけにもいかない。
覚悟を決め、何とか軽くブレーキを効かせつつ、結構なスピードで下ってゆく。
(ここで転んだらどうなるんだろうねぇ…)と心の中の悪魔がささやくが…聞こえない、聞こえない!
自分で自分に聞こえないフリをして、風を切りながら下ってゆく。おー気持ちいいなー。爽快爽快。

この頃から、いつの間にかすぐ後ろに校長の自転車が走っていて、声だけでアドバイスが入りだした。
「ハンドルぐっと引いて。ハンドルをお腹のほうへぐっと引き付けて」やはりこの長い急坂は、ド素人には恐怖の関門だろう。

このアドバイスはどういう意図なのか分からないのだが、とにかくこれで姿勢は安定するようだ。なるほど…身体と自転車が一体になって、軸がしっかり定まる感じ。

後で皆の話で分かったのだが、このトンネルの付近は一番転倒しやすい場所らしい。グループの中の何人かが、決まってここで転んだりリタイアしたと言っていた。やはりみんな同じように、心の中の悪魔が、ここで囁くのかもしれない。
そのままトンネルを過ぎると、また後ろから声がかかった。
「そろそろ上りにかかるから漕いでみようか」
漕ぐのは比較的スムーズに行くんだよねえ、発進さえうまくいけば。

ところがこの自信も、<不老の坂>と標識のあるところで、あえなく潰えた。
肉眼で見る限り大した坂じゃないのに、ぜんぜんペダルが動かない。ペダルに体重を乗せることができないのだ。
「諦めるな!諦めるな!漕げ!漕げ!」と後ろの声に追い討ちをかけられながら、懸命に漕ぐが、カーブのところでついにバランスを崩して足を着いてしまった。

「あーあー、あきらめちゃったぁー」と後ろの声。
姿の見えなかった仲間がこの付近にだいぶ渋滞して、えっちらおっちら漕いでいる。
ここに至って、最初の自転車選びのアドバイスの意味が、よく分かる。
あの26インチに乗っていれば、前に体重をかけやすいので、この坂も漕ぎ抜けることができただろう。このママチャリでも、もっとサドルを上げていれば漕ぎやすいはずだ。足の疲れの事なんて、少し走る間に跡形もなくどこかに吹き飛んでいるし。
ただねー…、今日の私はこんなもんさ…。

この後のコースは楽で、後ろのコーチもいなくなった。緩やかな下り坂が多くて、けっこうスイコラスイコラ行ったが、最後の難関に来た。
コースの出口付近が意地悪なぐらいの坂で、目の前に休憩所が見えていながら、最後の数メートルがなかなか進まなかった。

2kmのコースを、最初の一周にいったい何分かかったか覚えていない。後で聞いたら一周7分が標準です、ということだったが、ひょっとしたら20分、いや、30分ぐらい?
そんな長い時間、何をしていたかというと、途中でバランス崩して自転車から降りて溜息をついていたり、いったん足を着いてしまった後、発進がうまくいかなくて何度も何度もやり直していただけだ。まあ初めてはこんなもんさね…。

まだセンターの開場前なので、走っているのはこの教室の人だけだ。2キロのうねうね曲がった、山あり谷ありのコースの中に17人-3人で14人だが、ほとんど姿を見かけなかった。みんなそれぞれ、思い思いの場所でもたついているのだろう。

二周目が終わったとこで一息入れて水分補給。みんな集まって来て、校長も加わって雑談に。
「あっ、二人乗り自転車がある。私後ろに乗せてもらいたーい」
「たまーにね、乗せてあげることがあるんですよ。どうしても乗れない人もたまにいるから」

やっぱり、乗れない人もいるんだ。
誰かが「習得率99.9%の中身ってこれかあ…立ち漕ぎぐらいできるかと思ったんだけど」と呟いていたが、やはりその時のコンディションもあるし、新しい感覚を身体に覚えさせるには時間のかかる人もいる。

3周目、4周目と、けっこう調子が出て来たが、もう11時近くなって、コースには一般の人がだいぶ増えて来た。
今日はいいお天気だし、家族連れが急速に増えるだろう。さっきは子供が何人か後ろから走って来たので、心の中で(さっさと行ってくれえー無事に抜いて行ってくれえー)と呟きながら、なるべくふらつかないように走っていた。

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