自転車教室参加レポート3

次の難関へ~転倒者続出

しかし…この頃から、あちこちで転倒者が出始める。
ここで定員20人の理由がわかった。この広場で同時に走り回るのは、確かに20人が限界だ。
今回は突然キャンセル組みが3人いたため、じっさいは計17人だったが、みな初心者でフラフラしながら乗っているため、うまく障害物を避けられない。接触しそうになっても、ブレーキの存在を忘れていたりして、ぶつかって倒れることもある。

指導員は、助っ人が加わって5~6人居たような気がするが、勢いの付かない人は、ハンドルを持ってグイグイ引っ張ったり、バランスの取れない人は、やはり後ろを持って補助している。

だいぶみんな乗れるようになってきたので、広場を右回り、次に左回り。条件が変わるたんびに「あっできない~!」という声が上がる。でも全体に、女性ばかりの講習とは信じられないほど、口数も少なく、みんな真剣だった。

しかしどっちかというと、オバさんは不真面目だ。
50代のワタシが一生懸命乗ってるのに、40代の二人はすでにリタイアして、休んでいるではないか。
まあこの片方の人は、転んでけっこう深い傷だったので医務室行きになったし、もう片方は開始早々、気分が悪くなって顔色がまだらになり、休んでいたのでしょうがないのだが。

私がフラフラしながら懸命に漕いでいると、指導員が勢いつけて後ろから押しながら「だいじょぶだよー、持ってるからね。はい、どんどん漕いで~。だいじょぶ、だいじょぶ、ちゃんと持ってるよ~」
…って…、ウソつけ……声がずいぶん後ろのほうから聞こえるんだけど…。

初日の練習は、合計4時限ぐらいの練習だったが、3時限目ぐらいからだんだん調子が出てきて、緩い下りではけっこう安定してスピードも出る。
なんだか、アイススケートを覚えたての頃、スピード狂になりそうだった感覚を思い出してしまった。スケートは滑れるんだから、バランス感覚はそんなに悪くはない筈なのだ。
でもスケートも、スピード出しすぎてうまく止まれなかったけど、今日はすでに3回転んでしまった。

転ぶといっても、私が転ぶのは、人と接近してバランス崩したりすると、自分から転がってさっさと自転車から離れてしまうので、まずひどい怪我はしない。周りの状況もちゃんと把握した上で、安全な場所に転がる。
合気道の受身って、周りをちゃんと見ないと、かなり危ない。昔、転がった瞬間に脳天に人の足がぶつかって、頭の中が真っ白になったことある。転がって天地が逆になっている状態でも周囲がちゃんと見えるようになるまでには、かなりの期間の稽古を重ねる必要があるのだ。

他の人はけっこう顔を切ったり、膝をすりむいたり、脛を打ったりしているみたいだ。自転車に靴紐が引っ掛かって、そのまま自転車の下敷きになってしまった人もいる。
軽症と思った私でも、後から調べると足がかなり色が変わっていた。しかし長年受身を取って打ち慣れている体なので、一見普通のオバさんに見えてもなかなかしぶとい。

最初転んだ時には、指導員がびっくりして駆け寄って来たが、後はそんなに心配してなかったようだ。しかしこの辺りで何となく、最初に地面の上で体操した理由も想像がついた。

普段から運動をしてない 普通の人の場合、大人が転ぶということはかなりの大ショックで、かなりのダメージとストレスを受ける。直後もすぐにはショックから立ち直ることが出来ず、また失敗を重ねがちだ。
そこで、少しでもショックを軽減する為に、最初に地面と仲良しになっておく…と、これは穿った見方だろうか?

一日目終了後の情景

そうこうするうちに、5時前に一日目の練習は終わった。今日は真夏にしては気温も低く曇り空で、ほんの少しだけお湿りが落ちてきた程度だったので、練習には最適の気候ではあった。
みんな、かなり疲れたみたいで、言葉も少ない。ほとんど全員が、指が曲がったままで硬くこわばっている。手に豆ができて、潰れてしまった人も多い。

あれ?私は手はまるっきり平気。腕も肩も全く平気で、指なんかぜんぜん疲れてないけど、力の入れどころが違うのかなあ…。
そう言えば、指導員の「下見ちゃダメ!前を見て。少し離れた前方を見て!肩の力抜いて!上半身リラックスしてー!」
という掛け声を(なるほど、何でも同じだなあ)と思ったが、やはり腕に頼らずに体幹で動くというのは、何の世界でも同じなようだ。パソコンのキーボード打つほどにも、指は疲れていない。

その代わり…お尻が痛い。これはかなりひどい。自転車のサドルって、あんなに座り心地の悪いものだとは知らなかった。
自分の体重にも責任があるのだが、やはり初心者はサドルに全面的に体重を乗せてしまい、脚が使えていないことも原因しているのだろう。

お風呂に入ってから夕食。みんな黙々と食べてはいるが、御飯があまり喉を通らない人も何人かいる。少し話しかけてみて情報収集。この自転車教室は、インターネットで探して来た人が多いが、ネットを使わない年代の人は、テレビの特集がきっかけで知った人が多いらしい。

その特集では、全く乗れなかった奥さんが、この教室に参加して練習する様子をドキュメンタリータッチで描き、帰りには車に新しい自転車を積んだ旦那さんが迎えに来る、という流れだったそうだ。

うーん、そんなにうまく行くだろうか…?今日はいちおう乗れはしたが、身体を使うことって、技術は覚えられても体に染み付くまでには一定の時間がかかるし、この広場で初めて乗ったばかりの人が、いきなり車や歩行者のいる公道を、安全に走ることができるのだろうか…。

夜、同室の3人といろいろダべり、みな同じところに打ち身やすり傷を作っているのを見て、安心(?)する。
救急箱がけっこう活躍して、あちこちの部屋を行き来したが、この状況を見渡してみると、年齢制限55歳という条件に、少し疑問が湧いてきた。
若いほうがいいに決まってはいるし、45歳とか50歳以下だったら私は来れなかった訳だが、40台の二人が体力が追いつかず、50台で制限年齢ギリギリの私が元気なのでは、個人差のほうが大きいような気がする。

それに、 毎日のように武道や水泳で身体を使っていて、転んでも受身を取れる私がこのありさまでは、普通の55歳にとっては、もっとずっときついだろう。
しかし、年取ってからのほうが、人に習うという意識が少なく、こういう講習会ではきっかけを掴むだけと割り切って、結局は自分のペースで、我慢強くチャレンジすることが出来ると思う。
若くても明らかにバランス感覚の悪い人は、自転車というのは基本的に不安定で危ない乗り物であることを考えると、乗らない、という選択肢もあると思う。

慣れない筋肉を使ったせいか、あまりに身体が痛いので少し柔軟体操をして、ベッドの中で本を読もうとしていると、窓の外でポン、ポン、と何かが連続して戸を叩くような音がする。

調べに行くと、近くで花火大会をやっていた。「この部屋、年増部屋なのに一番奥まで歩かせるのねーって言ってたら、この部屋が花火が一番良く見える位置だったんだ」と笑いながら、花火を堪能する。その後、一人で二度目の風呂に入る。まだ9時にもならないのに、他の部屋はずいぶん静かだ。

同室の一人なんかは「もう乗りたくない!明日大雨になればいいのに」と、ぶつくさ言っている。
「雨でも外で練習です」
「それもできないぐらいの大雨が降ればいいのに」…困ったオバさんだなあ…。

みんな疲れてうとうとしかかってるが、「こんなに早く寝ると、1時とか2時に目が覚めちゃってその後が大変だから、10時までは寝ちゃダメ」と言うと、2人とも「そうだよね」とパッチリ目を開く。そうこうして四方山話をするうちに時間が経ち、いつしか全員寝てしまう。

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